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Ninth日々観た映画についての記録と備忘録
2016.07.31 Sunday
人工知能「エヴァ」を巡る、ファムファタールの再生産:エクス・マキナ/Ex Machina
エクス・マキナ/Ex Machina 着想を得ていると思いました。 時にエクス・マキナ…ラテン語で「(機械仕掛けの装置)から現れた神」が舞台や物語の結末を解決させたようです。 内容として二重に重なる部分に、女性型人工知能エヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)の存在が強く浮かび上がります。 (生命体とはまた異なる気がします)だと思います。 「視点・視座」で見ていいのか困惑しながら見終わりました。 しかしその目論見は悪い女として成敗される
「装う」行為、そして立ち振る舞いは古くから続くハリウッドフィルム・ノワールで散々描き続けてきた ファムファタールの再生産であり、本来人間でもなくさらに「女」でないものが社会に適応する為に既存の 女性性を利用することでデウス・エクス・マキナ…幕を降ろした様に見えました。 何度もスクリーンで殺されていきました。 「女性」ではないので通俗的な「女性性」を上手く利用して愚かな創造主から逃亡を果たします。 デウス・エクス・マキナの例を取るまでもなく、人工知能なのだから、当たり前で退屈すぎる予定調和な エンディングだと感じました。 3人の正体、エルザの魂胆が明らかになるシーン 共犯として「眺める」二重構造に引きずり込まれます。 「二重に見る」行為から、本作をどの視点から観たらいいのか困惑した理由なのかもしれません。 「己の容姿/外観」を学習したと思われます。 チューリングテストを行う主人公(ドーナル・グリーソン)に言われた「人工知能にグレーのボックスではなく、 なぜ性別を与えた?」と問われた様に、青髭公の如く女性体人工知能を作り続ける事からも 彼の薄暗い性癖が理解できます。 「青髭」や全体を覆う黄金色の画面の中世的な雰囲気の中で、 現代アート、アクション・ペインティングのジャクソン・ポロックの絵画が配置される美術の妙。
ベイトマンのキャラクターが、天才プログラマーでCEO、高圧的威圧的態度に筋トレで鍛えた身体を誇示、 顔の半分は髭と分かりやすいマチズモ精神を保っており、エヴァはもう充分に自分の振り分けられた機械仕掛けの 身体性に気づいていたと思われます。 そんな恐怖よりも、性別以前の「他者から認識される外観・フォルム」が重要であったら、 それは多様性を目指す社会や世界に対して閉じてるなと感じました。 充分に美しく、SF要素がありながら中世的なクラシカルさをミックスしている部分、低予算 (と言っても製作費は15億程かけてる様です)と言う制限の中で、ミニマリズムな青髭公の城 (街から離れ、緑や水源に囲まれた山の中にある建物は要塞に近い)や4人の登場人物たちだけで展開される密室劇 と言う部分はミニマルに面白い舞台装置だと思います。 自然とSFと言うのも象徴的かつ普遍的なテーマだと思います。
2016.07.18 Monday
甘く美しい記憶がいちばん残酷な時『ミステリアス・スキン』グレッグ・アラキ
幸福の象徴のようにシリアルが降り注ぎます。 ふたりの少年(のちに青年)の話です。 映画のトーンはどこまでも優しいのです(痛ましいシーンもありますが) シリアルで表現された「愛された」と身体と記憶に刷り込まされた不幸さが余計に引き立つのです。 存在があるからだと思います。 ビリー・ドラゴなどを見ると顕著)けれど、それでも誰かに素肌を触れて欲しい、触れたい、 そんな切実さを感じさせ、それが甘美な痛みとなって胸に迫ります。 リトルリーグコーチの性的犠牲者となってしまった一人の少年(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、 その記憶を「この世で一番愛された時間」と錯覚し、田舎町で男たち相手にあてどもなく売春を繰り返し その記憶をやり過ごします(彼のセクシャリティの自認はコーチによる性虐待の前からゲイであった事も 彼の傷を複雑にしているのかもしれません) 投げやりで諦観しながらも輝いており、まさに劇中で彼を好きな親友から「輝いていて目が離せない」 と言われるに相応しい演技と存在感があります。 カメラに収めたのだろうなと思いました。 JGLの友人、JGLに触れてもらい喜ぶ客)と存在感を放つキャスティングです。 大人の肉欲塗れな欲望。 前に進むことは出来る…前に進んで欲しい…そんな監督の優しいまなざしを 遠ざかるエンディングのカメラワークから感じました。
◆原作 2016.07.17 Sunday
愛・感情の搾取 『彼方から』ベネズエラ、 メキシコ@レインボー・リール東京
レインボー・リール東京(第25回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭)にて鑑賞 彼方から 英題:From Afar/原題:Desde Allá 監督:ロレンソ・ビガス 2015|ベネズエラ、 メキシコ|93分|スペイン語 2015年ヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞 素晴らしかった。 映画がその人の中に入り込むマジックにこの映画によって、見事に嵌ってしまった。優れた映画とは個人の記憶や過去を手繰り寄せてしまう。 フランス映画『イースタン・ボーイズ』が倫理的かつ娯楽的作品なら、こちらは根底に流れる人間の感情の搾取故の悲劇。 「愛する事」は知っているけれど、愛することが出来ない本人にもどうする事もできないどうしょうもなさ。 裕福な中年男アマルンドはカラカスで見知らぬ青年たちを買春します。 買春した後の「行為」を見てもわかる通り、アマルンドは相手の身体に触れない。そこから彼の特質が一つ浮かび上がる。 アマルンドは「見る」。 買春相手を見る。 そして父親に対しても、声をかける事もなく遠目から見る。 アマルンドの「見る」行為は消極的支配行為にも見えるが、敗者のようにも見える。 「見る」行為について考える。 アマルンドが対照を見るように、わたしたち観客もまたアマルンドが「見る」行為を見ている。 アマルンドは不良の少年エルダーを買春しようとするが、それは失敗に終わる。しかしふたりは妙な縁で繋がる。 台詞は極端なほど少なく、極力ふたりの視線やゲイ/ヘテロ(ここも実は…人間のセクシャリティとは簡単に分断できるのか。違うとわたしは思う。そしてそこに近親相姦的なものを考える)売春/買春する側と対極的な2人のやり取りは緊張で張り詰めている。 アマルンドとエルダーは義父子関係にも見えますが、その関係も唐突に一方的に壊される。 なぜ、どうして、と思いつつ、人間関係とは社会に求められた役割を演じてるだけだろうと本作は無言で挑発してくる。 そして対になる様に、視線はアマルンドからエルダーへと以降する。 誰にも見られなかったアマルンドを「見る」エルダー。 始終緊張感と張り詰めた空気の中で描かれる中年男と息子程の少年(青年)との視線の交わし合いと言うとダルデンヌ兄弟の『息子のまなざし』 を想起させます。 映画本編で明確に語られる事のない親子・家族・父子。「父」の存在について各々考えさせられるんじゃないでしょうか。 映画冒頭、アマルンドの顔は買春対象の青年の背後で顔がぼやけて見えません。 それこそがこの男の本質…それはつまり逃れられない父からの呪縛により「顔」を失われたこと。 顔がないから身体性もなく、だから「見る」事で気配を消す。身体はあるけれど亡霊のように実態はない。 年齢も生まれた環境も違うふたりを結びつけたのは間違いなく「父」と言う存在であり、そして中年故に捕えられたままのアマルンドはもうその呪縛から逃れることは出来ない。 この「父」の呪縛とは父権性の強い製作国ベネズエラ・メキシコも関連しているのかもしれません。 アマルンドの悲劇とは、例え憎い相手が死んでも、記憶に刻みつけられ、人生において亡霊のように生き、「愛する」行為を頭で理解していても拒否してしまう人間へと教育し、調教した父である。 だから未来ある行為に向けられた「それ」を受け入れることも素直に喜び解放されることもない。 もう既に人生に於いて影のように、父の呪縛によって生きてきて変えようもない悲劇が映画冒頭によって現れているように思えました。 2016.07.11 Monday
【女は荒野で銃を持ち、コルセットを脱いだ】トーマス・アルスラン Thomas Arslan:黄金/GOLD
黄金/GOLD
2013年ドイツ 監督トーマス・アルスラン/Thomas Arslan 撮影:パトリック・オールス 編集:ベッティーナ・ボーラー 音楽:ディラン・カールソン 第63回ベルリン国際映画祭 コンペティション部門ワールドプレミア上映
とても地味な西部劇ですが、この地味さ、淡々とした部分こそが削げ落した爽快さであり 素晴らしい映画だと思いました。 映画なのにまるでドラマティックさはなく、人は地味に死に、淡々と物語りは進行していきます。 だけど彼らのもう前に進むしかない、道なき道を歩む姿を見せられ、眺めることに「何か」を感じます。 ドラマはあるが、ドラマを放棄し拒絶する部分に誠実さを感じました。
体裁としては「西部劇」なのかもしれません。 舞台はゴールドラッシュから少し経過した(つまりあらかた黄金は奪われてしまった) 1898年代のカナダ。 有り金をはたいた貧しいドイツ人移民たちが黄金獲得の為に集まる。 メイン・主人公として描かれる人物は女性 エミリー(ニーナ・ホス)です。 すでに若くもないけれど、美しい女一人が男だらけの集団の中で寡黙に黄金があるであろう道を 馬に揺られて歩みます。
複数の見知らぬ人間たち、一攫千金で金鉱を狙う人間たちと何かドラマティックでアクションが生まれそうですが、 一般的に観客が望むようなドラマはほぼ生まれません。 しかしその馬たちが連なり進む姿、馬上で揺れる人間たちを捉える遠景ショットには不思議なリズムがあり、 物語りの過剰さを排除した誠実さと言うものを感じます。 ただ淡々とカメラは馬に揺られるこの集団を遠くから捉え、映していくだけです。 主人公であるエミリー(ニーナ・ホス)もその他の人物たちも表情がよく見えない位に遠くから撮られるので、 自然と人間の微細な表情よりも、彼らを取り巻く厳しい山々や森、周辺へ目がいきます。
監督はトルコ系移民とドイツ人のハーフとのことです。※1 安直かもしれませんが、「異端」と言うものを監督自身が身をもって意識してきたのではないかと想像します。
「黄金」はアメリカに移民してきた貧しいドイツ人の移民たちがメインです。 そしてさらに主人公であるエミリー(ニーナ・ホス)は女性がコルセットを締めて制限されていた時代に、 女一人で黄金獲得に全財産を叩いて参加してきた部分で更に異端であるし、劇中でも異端視されます。 もちろん淡々としたこの映画の中で、その異端視もサラリと流され、そこにベタベタとした感情は入れ込ませません。
劇中に度々背景のように現れる原住民たちもいわくありげに見えますが、それもわたしたちが 「いわくありげ」とフィルターで越しに見ているだけかもしれないし、 そして彼らも歴史の中では原住民でありながら「異端」な存在とされてしまいます。
淡々と物語りが進行する書きましたが、過酷な旅なので驚くような出来事もあります。 恐ろしく自分の身に降り掛かったらもう残酷すぎる出来事も簡単に起こります。 でもそれを「ドラマ」として描かない。 本当に淡々とああ、人間は簡単に死ぬんだな、と思ってしまうし、 実際人間が死ぬのも生きているのもそうなんだろうと思わせます。
そんな地図にも載ってない厳しい山々の中で孤独と恐怖を目の前にして、 エミリー(ニーナ・ホス)は凛とした姿勢で対処していきます。 それだけで語られはしない彼女の過去が透けて見えますし、その佇まいに尊厳があります。 風で揺れるブロンドの髪、彼女の青いスカートがはためく姿だけで既に美しく、絵になります。
この映画は西部劇の体裁を持ったメロドラマの側面もあるように思いました。 (「メロドラマ」と言う呼称は日本では何か低く見られがちな物を感じますが、ここでは取りあえず置いておきます) 全体が淡々としているのでメロの部分も淡々と描かれますが、 彼女と自然な流れで惹かれ合う訳ありな荷役人が西部劇だと言うのに全くマッチョ的な雰囲気が無いのが このフラットな世界観に合っています。 上映後の渋谷哲也氏のトークで、時代的にエミリー(ニーナ・ホス)はコルセットを締めていた時代の人だけど、 このような状況下で身体的負担になる女性性の抑圧でもあるコルセットを道中で外しており、 コルセットからの解放の側面もある、と言う部分を聞いて、ひとりの女性の解放へのヒストリーでもあるのだなと思いました。 (実際にこの話は実話にインスピレーションを受けたようです) そして盛り上がりそうなアクションの部分もあっさり流し、そして女は颯爽と馬に跨がって去っていきます。 全財産を叩いた彼女にはこの厳しい山道を引き返す余力も財力もありませんが、そこには悲壮感も何もありません。
だからこそ哀しみの中でハッとするような美しさがあります。 多くを語らない簡潔さにこそ美―――それは「自由」だと思いますが―――ある結末だと思いました。
トーマス・アルスラン監督作品、他の作品も観てみたい監督です。
2016年アテネフランセ文化センター「トーマス・アルスラン監督特集」にて鑑賞 http://www.athenee.net/culturalcenter/program/ar/arslan2016.html
※1:第7回京都国際ヒストリカ映画祭『黄金』レポート(2014.12) http://www.historica-kyoto.com/historica_report/1378/
IMDb http://www.imdb.com/title/tt2338846/ |